tnkado’s blog

駄文で綴る中年のたわごと(戯言)です

「北風小娘」 令和弐年文月 其の壱


スポンサーリンク
 

人影も見えない 濃紺の闇に包まれた街に

空が青から赤へと 色移ろう時が来た

 

朝陽が差し込むと 鳥はさえずり

朝刊を配り終えて 配達所へ戻る

新聞店のバイク音が響き渡る

 

小さな神社の境内にある イチョウの根元に

「時の扉」が突然現れた

 

扉が少し開くと ピューっと冷たい風が吹き

小さな旋風(つむじ)を起こした

 

旋風が止むと、扉の向こう側に キリッと立つ

北風小娘の「あんず」がいた

 

彼女は大きな深呼吸をして 懐かしい

街の香りを思いっきり吸った

 

「あんず」は 冬の神様に命じられて

未だに衰えない 流行り病の様子を偵察に来た

 

と どこからか

卵が焼ける香ばしい匂いがして来た

 

クンクン クンクンと

食い意地は昔と変わらない「あんず」は

その匂いの元を辿(たど)った

 

 住宅街にある 

アパートの一室にたどり着いた

 

部屋の中の様子を覗き見ると

キッチンで 中年の男性が

目玉焼きを2個焼いていて

 トースターには 8枚切りの食パンが

2枚焼かれている最中だった

 

男性の寂しげな横顔が気になり 

 

「あんず」は 左手で懐から

人型をした真っ白な紙を取り出すと

何やら呪文をゴニョゴニョ唱え

口をつぼめて、軽く息を吹きかけ

窓の隙間から室内に入れた

 

紙人形は 男の背中に張り付き

彼の記憶を「あんず」に見せた

 

 奥さんは 初めて子を身籠った

 

縫製が趣味の奥さんは やがて産まる

新しい命のために 

 

「愛しさ」と「やさしさ」を紡いでは

パプコーン編みで帽子を

棒針編みでロンパース

かぎ針編みでベビースタイ等を作った

 

ある日 かかりつけの産婦人科から

総合病院への紹介をすすめられた

 

薄紅の秋桜が満開を迎えた頃

予定日よりも早く陣痛が来た

 

児は死産だった

直後に母体の様態が急変し

母親も亡くなった

 

羊水塞栓症を発症した為だった

 

男は 愛する妻と子を同時に失い

絶望し 何年も死を受け止めることが

出来ずにいた

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プライバシーポリシー お問い合わせ