tnkado’s blog

駄文で綴る中年のたわごと(戯言)です

スピンオフシリーズ 「堕天使 BJ」編 6


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かつて眷属神だった麝香鹿(ジャコウジカ)

今はBJと名乗る堕天使は

塒(ねぐら)とした神社の

石造鳥居の上で寝ていた

 

五月闇に雨がしとしと降り出し

紫陽花の葉を揺らすと

 

蝸牛(かたつむり)が目覚め

滴(しずく)で濡れた葉の上を

這い始めた

 

遠くで稲光が走り、しばらくすると

息苦しいほどの雨になったが

夜が明ける頃には止んだ

 

梅雨の晴れ間の穏やかな日

神社の境内には

夏の前の淡い陽射しが差し込んで

 

樹々の鮮やかな新緑を

より一層際立たせた

 

朽ちた神社であったが、時々訪問者があった

 

木漏れ日の中を、日傘をさしながら

境内に向かって歩いてくる

鮮やかなローケツ染めの単衣(ひとえ)に

すくいの帯は、まるで水しぶきを浴びるような

涼やかな装いの、その妙齢の女性には

朽ちたこの神社は場違いなようだった

 

女性はイチョウの大木に、薬指に指をはめた

左手を添えると、目を閉じて想いを過去に馳せていた

 

既にこの世のものではない

おそらく生前、大事に飼われていたと思われる

三毛猫が一匹、女性の足元に寄り添い

優しく見守っていた

 

BJは両眼を閉じ、眉間にある第三の眼を

見開くと、女性の深心を覗いた

 

女性は貧しい家に生まれ

学校を卒業すると、家計を助けるために

料亭で仲居の仕事に就いた

 

ある日、常連の会社経営者が青年を伴い

会食に連れて来た

 

青年は6人兄弟の長男で、進学を諦めて

家族のために学校を卒業すると街へ働きに出た

 

お互いに心の片隅に寂しさを抱えていた

 歳の近い、似た者同士の二人は

たやすく恋に落ちた

 

初めてのデートは、その神社の「祭り」だった

 

お囃子の鐘の音が鳴り響き

綿菓子の甘い香りがただよう

アセチレンのガス灯に照らされた夜

 

そのイチョウの木の元で

若い二人は唇を重ねた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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